東京高等裁判所 昭和27年(行ナ)9号 判決
原告 石塚幸次郎
被告 株式会社立正製鉄所
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
第一請求の趣旨
原告訴訟代理人は「昭和十八年抗告審判第一、二七七号事件について特許庁が昭和二十七年三月二十六日になした審決を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」旨の判決を求めると申し立てた。
第二請求の原因
原告訴訟代理人は、請求の原因として、次のように述べた。
一、原告は特許第一三四八二二号「熔鉱炉出口の止栓」(以下本件特許発明という。)の特許権を有するものであるが、被告は昭和十七年五月三十日特許局に、右特許の無効審判を請求した。(昭和十七年審判第一二四号事件)特許局は、右事件につき、昭和十八年八月二十五日「本件特許はこれを無効とする」との審決をしたので、原告は、右審決に対し、昭和十八年九月三十日抗告審判を請求したところ(昭和十八年抗告審判第一、二七七号事件)技術院は、原告の主張を容れ、昭和十九年八月二十日「原審決を破毀する。抗告審判被請求人(本件における被告)の申立は相立たない。」との審決をなした。
被告は右審決を不服として、昭和十九年十月三日大審院に出訴したが、(昭和十九年(オ)第九〇五号)裁判所法の施行に伴い、右事件を審理することとなつた東京高等裁判所は、昭和二十三年四月三十日、審決には理由不備の違法があるとの理由で、審決を破棄し、これを特許標準局に差し戻す旨の判決をなした。
よつて事件は再び特許局に繋属したが、(昭和十八年抗告審判第一、二七七号)特許庁は、昭和二十七年三月二十六日従前の見解を飜えし、本件特許を無効とするとの審決をなし、審決書謄本は同年四月十一日原告に送達された。
二、右差戻後の審決(以下単に審決という。)において、特許庁は、無効審判申立について被告の引用した、ウオルターリスター著千九百二十九年版「プラクチカルスチールメーキング」中の「熔鉱炉の流出孔が破損した場合の修理法に関する記載」(以下引用刊行物という。)を引用して、原告の本件特許発明を無効とする旨の審決をなしたが、先ず、本件特許発明の要旨は、「金属を以つて作つた長い錐筒体又は断頭錐筒体に、耐火質物を練成した資料を填充してなる熔鉱炉出口の止栓にあること」を認定し、一方引用刊行物は、「熔鉱炉の流出孔が破損した場合、この流出孔を新たに構築し、或は修理することに関し記載し、(中略)そのいずれの場合にあつても、石炭のみを又は石炭と耐火材を、交互に填充した鉄管を流出孔の存在すべき部分に定置し、鉄管の周囲の空間に填充混合物を固く充填して一体とすることが記載されている。そしてこのようにして修復した炉に、原鉱を供給し、炉を稼動し、出銑するときには、鉄管の湯の中に熔け込むこと、あとには完全に修理せられた流出孔ができていることが記載せられている」ことを認定した上、続いて両者を比較して、次のようにいつている。
すなわち「両者は、炭素質物からなる耐火性物を充填した鉄管であることにおいて、全く同一であるが、前者が錐筒体であるのに対し、後者が同一径の管体であること、前者がグラフアイトコークス等の耐火質物を練成した資料を填充するのに対し、後者が別段練成工程を施していない石炭又はこれとドロマイトその他の耐火材との混合物を填充する等の点において、両者は相違するものである。」と、その一致点と相違点とを明らかにした上、相違点について判断するに、本件の特許発明の止栓は、「熔融物が殆んど流出し終つて殆んど空虚となつた熔鉱炉に対し、流出口を閉じることにより、次回の熔鉱炉の稼動鉱中熔金の洩出を防止し、併せてこの稼動の終了後容易に熔金を流出させる湯口を、予め設置するために使用せられる栓というに帰し」、これに対し、引用刊行物における「鉄管は、炉の流出孔修理の中心体であると同時に、炉の稼動に当り、その周囲の耐火物と共に、熔金の洩出を防止し、炉の稼動の終了後鉄管の内部に充填した耐火物を除去することによつて、炉壁の特定個所から熔金を奔流出させる作用を果しているものと認められる。」として、結局両者は、その作用効果が同一であり、前記の相違点については、「この鉄管に填充されている耐火物は、本件特許発明の止栓と相違して、練成してないことは明らかであるが、熔金その他の流出防止並びに開口を速やかにする点において、この練成による効果が特に著しいとすることはできないし、また本件特許発明の栓が錐筒体である点は、栓本来の性質上当然の形である。」と認定し、結局両者は、相類似したものであると結論している。
三、しかしながら本件特許発明と引用刊行物の記載とは、次に述べるように、目的、構造及び効果の諸点において、全くその性質を異にし、本来比較することができないものであつて、両者が相類似すると認定している審決は、違法であつて取り消されなければならない。
(一) 目的、本件特許発明は、完全に稼動している熔鉱炉において、熔金取引の直後なお熔金の流出している流出口にこれを挿入することにより、熔金の流出を完全に阻止し、かつ、その挿入阻止方法が簡易であり、次回の熔金取出の時まで該口を閉塞させ、更に次回熔金取出の際は、先端を尖らせた金属棒の頭でこれを突きこわすことにより、簡便に熔金を流出させる熔鉱炉の止栓を得ることを目的とするに対し、引用刊行物の記載は、稼動を停止した熔鉱炉の消耗、変形、潰崩した熔金の出口を再構築することを目的としている。
(二) 構造、本件特許発明の熔鉱炉出口の止栓は、金属を以つて造つた長い錐筒体又は断頭錐筒体に、「グラフアイト」「コークス」等の耐火物の練成材を填充して作られているのに対し、引用刊行物記載の方法に使用するものは、金属を以つて造つた前後同一径の管体に、練成工程を施していない石炭又はドロマイトその他の耐火物を填充してなるものである。
(三) 効果、本件特許発明は、(イ)止栓の外形が先細の錐状となつているため、熔鉱炉への挿入が極めて容易である。この止栓挿入の操作は、流出した熔金の側で、なお熔金が流出している出口に近接して行うのであるから、極めて敏捷迅速に行われることを要し、危険な作業である。従つてこの止栓の挿込が容易にできることは、熔鉱炉作業上の一大進歩である。(ロ)熔鉱炉出口の口径は、熔金流出の都度変化するが、止栓の外形が先細の錐状をなしているので、いつも実際の口径に合致するところまで挿し込み、完全に出口を閉塞することができ、不時に熔金が流出するようなおそれがない。(ハ)外殼の金属筒が先細の錐状体をなしているため、内部に耐火性の練成物を充填するので便利である。もし耐火物の充填が不均等で、内部に空気があるときは、止栓として使用中高熱のため破裂し、極めて危険であるが、金属筒の形を錐状体にすることによつて、自然にこのような危険を防止することができる。(ニ)錐筒体の金属製外殼の内部に、耐火質物を練成したもの、例えばグラフアイトを適当な粘結剤で練成したものが、密実に充填されているので、熔金の高圧、高熱に耐えてよく熔鉱炉出口閉塞の目的を達する。(ホ)練成物は、機械的、衝撃に脆いので、熔金取り出しの際先の尖つた、鉄棒などで突けば容易に崩れ、極めて簡単に熔鉱炉の出口を開き、熔金を出すことができる。(ヘ)熔金流出の際、これらの物質は、何等の抵抗をなさず、また外殼も薄い金属であるから、熔金のうちに熔け込み、結局止栓は、熔金流出の際何等の障害とならない。これに比較して、引用刊行物に記載したものは、ただ破損した流出口の修理方法に関するもので、その過程において、僅かに右諸効果の一部に類似した現象を呈するところがあるけれど、もその要部においては、目的、作用、効果を全然異にし、結局その性質が異るものである。
従つて引用刊行物の記載を引いて、本件特許発明を無効とする被告の主張を認容した審決は、違法であつて、取り消されなければならない。
第三被告の答弁
被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、請求原因としての原告の主張に対し、次のように述べた。
一、原告主張の請求原因一及び二の事実は、これを認める。
二、同三における原告の主張は、全然事実に相違する。すなわち
(一) 本件特許発明の止栓は、熔鉱炉の稼動を一時停止して熔金を流出させ、熔金が流出し終つて空虚となつた時、すなわち炉の稼動が一時停止している時、流出口を閉ずることによつて、次回の熔鉱炉の稼動中熔金の洩出を防止し、併せてこの稼動の終了後容易に熔金を流出させる湯口を、予め設置するために使用せられる栓であつて、決して熔金が盛に流出している最中に、該熔金の流出を阻止するために、流出口に挿入使用するものではない。一方引用刊行物に記載された、鉄管を出銑口に埋設し、流出口を閉塞する目的は、本件特許発明の止栓と同様、炉内の熔金が該口から洩出しないようにすると同時に、炉内の熔金を流出口から取り出す時に、該鉄管内に充填した耐火質物は金棒で容易に取り除くことができるので、炉内の熔金は、該管を通じて容易に流出させることができる点にある。そして右鉄管が熔金の内に熔け込み、何等の障害を与えないことも、本件特許発明と異らない。
また、止栓を錐筒体にするが如きは、栓体として当然の形体であり、錐筒体なるが故に、耐火物を充填するに便利なるが如きことも、また特筆すべき程の効果ではない。また金属筒体内に充填する物質も、両者ひとしく耐火質物を充填物として使用し、この点が本件特許発明の止栓において重要な点であつて、耐火質物の練成材を使用したがため、特別顕著な効果を生ずるものではない。
(二) 次に引用刊行物の記載は、熔鉱炉の「タツプホール」(湯口)の修理に関する表題のもとに記述されたものであるが、その内容を詳細に検討すれば、その修理に際し、流出口を完全に形成する手段として、流出口を形成する場合に、流出口の芯体として鉄管を定置し、流出口が構成されたならば、該鉄管を抜き出して、これに耐火質物の練成したもの、またはしないものを充填して、更に既に構成された流出口にこれを挿入し、該管と流出口との間に生ずる間隙や、該管の外側端即ち炉の外壁に面する管口部分を、耐火質物を以つて、適当に密閉被覆して、流出口を完全に閉塞する修理の手段方法を詳細に記述してある。そして該鉄管は、耐火質物を充填して再び流出口に挿入することによつて、流出口を閉塞する栓としての役目を、新たに果すものである。
耐火物を充填した鉄管を再びわざわざ栓として流出口に挿入する目的は、炉を稼動させた時に、炉内の熔金が流出口から、洩出することを防止すると同時に、熔金を取り出す時、該止栓の充填物を突き破ることによつて、流出口を容易に開口することができるような性格を具備した止栓としての作用、効果があるために外ならない。
以上述べるように、本件特許発明の止栓と、引用刊行物に記載されたものとはその目的効果において互に類似し、つまるところ、本件特許発明の止栓は、引用刊行物の記載から、当業者が容易になし得る程度のもので、特許法第一条の発明を構成しないから、審決が同法第五十七条第一項の規定により、これを無効とすべきものとしたのは、まことに相当である。
第四立証<省略>
三、理 由
一、原告主張請求原因一及び二の事実は、当事者間に争がない。
二、その成立に争のない甲第二号証(本件特許発明明細書)によれば、原告の権利に属する特許第一三四八二二号「熔鉱炉出口の止栓」は、昭和十三年十月二十八日出願、昭和十五年二月十五日特許されたもので、発明の要旨は、「金属薄板を以つて造つた長い錐筒体又は断頭錐筒体内に、耐火質物を練成した資料を填充して構成した熔鉱炉出口の止栓」であつて、その目的は、「これを熔鉱炉の流出口に挿入することにより、熔金の流出を、完全に阻止し、かつ、その挿入阻止手段至極簡易にして、また止栓除去熔金流出手数も簡便な止栓を得る。」にあることは、明細書中のそれぞれ「特許請求の範囲」及び「発明の性質及び目的の要領」の項の記載に徴し明白であるが、右「止栓除去流出手数も簡便な」点に関して、右明細書中「発明の詳細な説明」の項に記載された、「熔金を流出せしめる際には、頭片は、既に炉熱のため炭化したるを以つて、先尖りの金属棒等にて突けば、容易に排除し得られ、また金属筒内の耐火物も、また該棒にて突き潰すときは容易に除去せられ、金属筒は、熔金流出と同時にその内に熔け込むものとす。斯く、熔金流出の操作は至つて簡易にして、従来の粘土塊填充及び特殊技能を要しない」点も、その目的の一部をなすものと認定せられる。
三、次にその成立に争のない甲第三号証の一、二によれば、審決が引用したウオルター・リスターWalter Lister著プラクカチル・スチールメーキングPractical Steelmaking千九百二十九年版第八十四頁及び第八十五頁には、「(前略)流銑口taphole造出の順序は、先ず流銑口の周囲を煉瓦で積み直し、炉底が適当な高さに達したとき、流銑口造出の作業に取りかかる。流銑口側から直径約四吋の鉄管を、その先端が内方の壁面の底(またはその予定位置)に達するまで口内に挿入し、その反対の端は、粘土質硅岩ganisterを填めるために約六吋残して置く。鉄管を丁度の長さにした後、これを取り出し、先ず少量の粘土質硅岩、次いで石炭で填充し、再び口内に挿入する。鉄管が定位置におかれると直ちに、中間の窓から挿し入れた攪拌棒を供給側から、鉄管の頂上に固定する。このとき攪拌棒で鉄管を定位置に固定しつゝ、流銑口側から粘土質硅岩填充作業が、鉄管の周囲に亘り迅速になされなければならない。粘土質硅岩を充分填充し、砂が落ちないようになつたとき、攪拌棒を引き抜き、砂で流銑口の前面と壁面の形成に取りかかる。最初に鉄管の端を覆い、瓦斯栓を一杯に明け、約一割の沃土loamをまぜた砂で壁面を形成する。砂がよく焼き付けられるように、最高度に加熱する。壁面がすつかり固まつたとき、原鉱填充chargingを開始する。この場合鉄管を引き抜いてはならない。流銑の時流し出されるように、そのまゝ残しておくのが安全である。」と記載され、また同書第百六十一頁には、「流銑口内側は正規の大さであるが、外側が大きくなりすぎていることがある。かかる場合には、短かい鉄管を、底部の方に挿入し、その周囲をドロマイトdoromiteで撞き固めることが必要である。流銑口は、前方から石炭及びドロマイトを使用して通常の方法で閉鎖し、そこへ鉄管を挿入するのであるが、この場合鉄管は、口の外側から三、四吋短かくして、粘土質硅岩または耐火粘土で完全に被覆また填充されるようにしなければならない。先ず切り取られたマグネサイト煉瓦を取り換え、口の底部を撞き固め用の混合物で平坦にする。次に鉄管を挿入するのであるが、その前に鉄管は、湿つた石炭とドロマイトとの混合物で填充しなければならない。
鉄管が定位置に置かれたならば、鉄管と流銑口壁との間隙を注意して撞き固める。(中略)鉄管の端のところまで撞き固めることができたならば、鉄管をそのままにし、口全体に粘土質硅岩又は粘土を塗つて完全に閉鎖する。この作業が終り固く撞き固められたならば、口は鉄管のところまでできあり、鉄管は、無煙炭のところまで凌える。かくして新らしい撞き固めは、鉄管によつて支えられ、通常の大きさの流銑口が造出される。この口は、通常の方法により、もちろん鉄管をそのままにして、閉鎖することができるこの方法で修繕するときは、熔鉱炉の作業は、寸時も遅らす必要はない。原鉱充填を行いつゝ、流銑口の反対側における作業は進行し、原鉱充填が完了する前に、作業は完成し、口は閉塞される。」と記載されてる。
以上抄訳した部分を綜合すれば、製鋼用炉において、熔金流出口部分の損傷したとき、これを修繕するため、湿つた石炭とドロマイトとの混合物等を撞め込んだ直径三、四吋の鉄管を、流出口となるべき箇所に挿入し、その周囲を粘土質硅岩で撞き固め、右の鉄管は、次の熔金流出の際、その内部を流れる熔金に融解して、一緒に流れ出すので、その儘口内に残されること、右修繕は、操業の間の僅かな原鉱填充の時間中に行われるものであることが当業者に容易に実施し得る程度に記載してあることが認められる。
特許庁から送付された審判記録中の大阪帝国大学図書館長の回答書によれば、右刊行物は、昭和四年六月二十二日大阪工業大学図書館に受け入れられ、原告の本件特許出願前国内に公にされたものであることが認められる。
四、よつて、原告の本件特許発明と引用刊行物の記載とを対比して見るに、
(一) 本件特許発明の止栓が、熔鉱炉の流出口に挿入することにより、熔金の流出を完全に阻止するとともに熔金を流出せしめるに当り、先尖りの金属棒等にて、金属筒内の耐火物を突き潰すことによつて、容易に流出口を形成することを目的としておるのに対し、引用刊行物に記載されたものは、熔鉱炉における流出口の構築、またはその損傷部分の修繕を目的としていることは、前に認定したところである。
しかしながら後者における鉄管は、流出口修繕の中心体であると同時に、修繕が完了した後は、その周囲及びこれの内部に充填した耐火物とともに、流出口を閉塞し、熔金の流出を完全に阻止し、また熔金を流出せしめるに当つては、鉄管の内部に充填した耐火物を除去することにより、容易に流出口を形成し、熔金を流出させる作用を果たしていることは、明かである。原告は、前者は完全に稼動している熔鉱炉において、熔金取出の直後、なお熔金の流出している流出口にこれを挿入することにより、熔金の流出を完全に阻止することができるのに対し、後者は稼動を停止した熔鉱炉の流出口の再構築を目的とするものである点において、両者は相違するというが、検証の結果及び証人森田良広の証言によれば、前者においても、止栓を施すのは電極への送電を遮断して、熔鉱炉中の熔金を流出せしめ、更にスラツグの大部分が流出した後であつて、熔金の流出している途中ではないことが認められ、また後者においても、「この方法で修繕するときは、熔鉱炉の作業は、寸時も遅らす必要はない。原鉱充填を行いつゝ流銑口の反対側における作業は進行し、原鉱充填が完了する前に作業は完成し、口は閉塞される。」との記載に徴すれば、その作業が、前者におけると同一の時期においても、実施されるものであることを認めることができる。
(二) その構造において、両者とも炭素質物からなる耐火性物質を充填した鉄管であることは全く同一であるが、前者が錐筒体又は断頭錐筒体であるのに対し、後者が同一径の筒体であること、前者が耐火質物を練成した資料を填充するに対し、後者が別段練成工程を施していない石炭又はこれとドロマイトその他の耐火材との混合物を填充点するにおいて相異することは、先に認定したとおりである。しかしながらすでに熔鉱炉における流銑口に挿入して、これを閉塞し、熔金の流出を完全に阻止する作用を営ましめようとする以上、引用刊行物記載の同一径の筒体を栓一般の形体である錐筒形又は断頭錐筒形に変更することは、当業者が容易に考案実施することができる改良であり、しかも甲第一号証の記載、検証の結果及び証人森田良広の証言によれば、本件特許発明の止栓も、これのみによつて、熔鉱炉の流出口を完全に閉塞するものではなく、その外周面に粘土の被層を施し、これによつて閉塞を完全にするものである。ことが認められる。また鉄管に填充される内容物が、前者においては、練成した耐火物質であり、後者においては、同工程を施していない石炭またはドロマイトその他の耐火材の混合物であり、またその外殼の金属等が、前者においては、先細の錐状体であり、後者においては、同一径であることも、その作用効果において、果して原告が主張するような顕著な差異を生ずるものであるかどうかについては、未だこれを明認するに足りる証拠はない。しかのみならず、前記引用刊行物第百六十一頁に「次に鉄管を挿入するのであるが、その前に鉄管は、湿つた石炭とドロマイトとの混合物で填充しなければならない。」と記載されているに徴すれば、後者においても、練成工程と類似の工程を施こすものであることが認められる。更に練成物が熔金取出の際、先尖りの鉄棒で容易に突き崩され、また耐火物質及び金属筒が熔金のうちに熔け込み、熔金流出の際何等の障害をなさない点については、引用例記載のものについても、格別の差異があるとは解されない。
以上認定の結果によれば、原告の本件特許発明は、その出願前国内に頒布せられていた前記の刊行物に、当業者が容易に実施することができる程度に記載せられていた事実から、当業者が何等発明力を要せずして推考し得るものと解するのが相当であつて、結局特許の要件を欠いていたものと認定するの外はない。
して見れば、審決が、本件特許は特許法第一条の規定に違反して与えられたものであつて、同法第五十七条第一項の規定によつて無効となすべきものであると判断したのは、相当であつて、原告の主張するような違法はないから、原告の本訴請求は、これを棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のように判決した。
(裁判官 小堀保 原増司 高井常太郎)